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「集める心」について

我が家に預かり子猫がいなくて時間的に余裕がある今のうちに、気にかかっていながら時間がかかりそうだから棚上げにしていたことを書いてみたいと思う。

昨年、手にした日本心理学会の学会誌「心理学ワールド66」の特集が「集める心」で、四つの論文が掲載されているのだけれど、そのうちの一つ、

ホーディングの心理的メカニズムと援助
五十嵐透子 上越教育大学大学院学校教育研究科臨床心理学コース教授


を読み解きながらまとめていきたい。
当然、今、保護猫の現場で問題になっている多頭飼育崩壊にも及んで考えていきたい。

まずは特集巻頭の序文まとめから。
物を集める、これはとても身近な行動です。~人が収集活動に時間とお金を費やすことには経済上の意味があるほか、コレクターどうしでコミュニティやネットワークが築かれ交流が盛んなところをみると、社会的な意味もあると考えられます。また資料の収集活動が、博物学や考古学など学問の発展を築いてきた歴史もあります。このように「集める」ことが私たちの生活を豊かにしてきた一方、現代では、ゴミ屋敷現象として知られるホーディング(強迫的ため込み症)や、ソーシャルゲームの流行で浮上したコンプ・ガチャ問題など、「集める」ことへの過度の熱中が問題視されている現実があります。(時津裕子)
このホーディング(強迫的ため込み症)の対象が猫になる場合が、まんま多頭飼育崩壊のケースであると思う。
これから先まとめていくけれど、もうその心理は病理であり昨今では新しく診断基準を設けられ対応に迫られている現況がある。
(ここから先引用は上記論文から)
「排泄物を流すと、汚染が周囲に拡大するから」と、何か月も排泄後に流さない人、「きれいにして売る」と、ごみ収集所からモノを持ち帰り、修理も再利用もしないままに部屋に積み上げている人、「大切な情報が書かれているから読まないと処分しない」と、何年分もの新聞や雑誌を保管している人等、~保存し続け処分しない行動に関連する考えも、それぞれ独自の内容がきかれる。
こういったためこみ度が過ぎた状況の人を
モノを自宅内外にためこみ続け(hoarding)、積み重ねて部屋中モノで溢れ返っている乱雑な状態(clutter)は、「ゴミ屋敷」として報道されている。
わけなのだが、
DSM-5では不安症(不安障害)群ではなく、強迫症および関連症群の一つとして「ためこみ症」(hoarding disorder)と独自の診断基準が確立した(APA,2013)。米国での有病率は1.5~5.3パーセント
(DSM-5とはアメリカ精神医学会が出版している精神障害の診断と統計マニュアルの書籍のこと)
フロム(Fromm,1949/谷口・早坂訳,1972)は、モノを集め保存し自分の周囲に城壁を築き、重要な他者ではなく所有物へのアタッチメントにより安心感を得る「ためこみ志向」を非生産的なパーソナリティの一つに位置付けている。
筆者はためこみ症に関連する5要因を挙げていて
一つ目の「個別および家族の脆弱性」には、遺伝的・生物的要因、社交不安症や神経発達障害等の併存、育成過程における親の価値観や行動およびトラウマティックな出来事等が含まれる。
補足すると、男性のほうが女性より遺伝的影響が高いらしく、また、ホーディングの症状は他の障害、統合失調症や認知症、強迫性障害、パーソナリティ障害などにもみられるとのこと、対人関係のストレスフルな出来事や、被虐待や喪失等のトラウマティックな体験が発症の引き金になったり憎悪化に影響を与えたりしていること、また、家庭環境で過度に片づけられていたり逆に乱雑な状態であったり、希望するモノを購入してもらえなかった体験等も、ためこみ症の要因として書かれていました。
二つ目の「情報処理プロセスの問題」は、モノの整理や分類への集中や意思決定の困難さ、視覚的サインなしでの想起のしにくさ等が含まれる。
これは多分、大脳生理学的な機能的資質の困難さや異質さに原因があるのだろうと思う。
三つ目の「所有物に対する意味づけや考え、信念、愛着」と深く関連していることも考えられる。
モノに感傷的な意味づけをしていたり、モノを擬人化し自分の一部として同一視している、完璧主義やミスをすることへの過度の心配や安心感を提供してくれる唯一の対象として考える等もこの要因が表す特徴に含まれる。
補足すると、慢性的経過の傾向がみられるそうで、お金の自由、住居空間の自由が高まる未婚の人が多く孤立しやすいとのこと、同居の場合は、捨てることや片づけをめぐる口論から非機能的な関係になりやすいとのこと。
四つ目「感情的反応」と五つ目「学習プロセス」は、モノに対する特定の考えや信念に情動反応が条件付けされ、保存行為にポジティブ感情が伴うことで強化され、処分や意思決定に伴うネガティブ感情を回避する状態であると考えられている。
これらの要因で条件付け、強化されてしまった「ためこみ症」の状況にある人への周囲の対応は容易ではない。
このような状態への対応は、クライエントの思いに添った援助であるサイコセラピーの原則が不可欠であることはいうまでもない。~行政・法的圧力による一掃も、クライエントの同意なく行われると、ネガティブ感情と不信感が高まり憎悪化しやすい。引っ越す場合もあるが、使用していないモノを処分し、入手や整理行動の改善が伴わなければ、置かれている場所が移動するだけで、新しい住居もそれまでと同じ状態になってしまう。
この現状、現場にあるのが猫ボラが遭遇する多頭飼育崩壊のケースだと思う。
で、こんな大変な人の前にあっても猫たちを助けたいと考えると、どうやって本人を説得、共に協力して解決していけるのか?という困難にぶち当たる。
ためこみ症に対する主要な対応(表2)では、「整理」「処分」「入手」の3領域で、これまでと異なる新しい行動の習得と習慣化が段階的に行われる(stepped care)。
①状態の適切な理解
主体的な受診でも、併存疾患や外的圧力からでも適切な状態理解は容易ではない。~ためこみ症に関するインタビューや9枚の写真で重症度を測定するクラッター・イメージ、同居家族反応等、9種類の尺度が開発されており、改善の評価にも用いられる。

まずはためこみ症の現状と平常との差がどれだけあるのかを把握する努力から始めるということだと思う。
多頭飼育崩壊のケースで具体的に考えるのならば、住居の広さから何匹の飼育が適切なのか、経済状況から飼育できる頭数は何匹なのか等を理解していくことだろうか?
②認知面の変容と直面化・エクスポージャー
対象となるモノが「必要か」vs「欲しいか」や「使うか」などの問いかけに、「不必要」や「使わない」の返答は得られにくい。~これらを考えることが、自分のからだの一部をもぎ取られるような体験や、安全感が損なわれるような強い不安を抱くのであれば、否認や抑圧、合理化等もみられる。

~「所有物を無駄にしてはいけない」「これがないと、思い出せない」「いつかは使える」~「誰にも迷惑をかけていない」「あと少しすれば、片づけられる」「独りでやれる」
こういった歪んだ価値観や考え、さまざまな感情と
これまでに黙って捨てられたり、クレジットカードを取り上げられたりと、多くのネガティブ体験をしており、セラピストに対しても強い警戒心を抱いていることも少なくない。
結果、その人なりの自己防衛をしているのだということを理解して
整理や処分場面に直面し不安や緊張が時間的経過のなかで軽減し、怖れていることは起きない新しい状態に慣れていく援助が求められる。
~実際に仕分ける、整理する、過度に入手しない、処分する等の行動に直面し習慣化が求められる。~これらに深く関与しているのが、その人がどのくらいこの状態に直面し改善に取り組むかの動機づけである。ミラーら(Miller&Rollnick,2002/松島ほか訳,2007)の動機づけインタビューが効果的とされ、開始時だけでなく、その後の取り組みの継続にも重要な働きかけになる。
参考として、Wikipediaでの「動機づけ面接」を引いておく。
動機づけ面接
③協力者やチームでの対応
ためこみ症の改善は、クライエント独りでは容易ではない。~家族や友人からの協力も容易には得られにくい。しかし、一掃するためにもきれいになった後の状態維持にも彼らはなくてはならない存在で、ためこみ症の適切な理解と対応に関する心理教育が求められる。加えて、一掃には掃除関係の専門会社やボランティア等の第三者の協力も不可欠である。

④状態の維持と再発予防
~状態維持のためには、毎日の取り組みを「課題」としてではなく、食事のように生活の一部として習慣化することが求められる。

ためこみ症現状の適切な理解を共感を基にすすめながら、特有な思い込みや行動に対して矛盾や抵抗をうまく導き、意識の変容を促して、有効な動機づけでモチベーションの維持をしていこうという解決への道筋だが、このような認知行動療法的アプローチは実際のところ、比較するならオバサンのダイエットの域では遥かに及ばないくらい毎日のコツコツとした努力の継続がその成功の鍵を握る。普通に考えても素人が援助の手を出せる世界ではない。
それを誰が見守り支えていくのか?正直、ボランティアが可能な話ではない。家族であってもその援助は相当困難を極めるだろう。
そもそも孤立した未婚の人が慢性的経過をたどりやすいとのことなのに、その人を支える重要な家族の存在が果たして得られるのだろうか?矛盾であることを否めない。
さらに、モノのためこみ症と違って多頭飼育崩壊のケースでは対象が命であるので、解決手段として処分も整理もそぐわない。このことは状況や環境の改善が著しく困難であるということを意味している。
では、どうしたら実際に多頭飼育崩壊に対する周囲の援助が可能なのか?
正直、どうにも建設的な解答がないのが現状だと思う。
現時点で、ためこみ症に対する理解や共感という問題解決の入り口でさえ周囲の人にとってはハードルが高い。クライエントと信頼関係を築き自己防衛を解いてもらう作業に至っては途轍もなく困難であろう。
では、この多頭飼育崩壊というパンドラの箱の底にあるものは何だろうか?
私が拙く考えることは、「愛情の有無」ではないか、と思う。
もしもクライエントに、多頭飼育の猫に対してモノ感覚ではなく愛情のかけらが存在しているのならば、その感情が一抹の突破口になる可能性が秘められてはいないだろうか?もし「かわいそうだ」という気持ちが多頭飼育の行動の最初の動機ならば、多頭飼育の現状もまた「かわいそうだ」と認識出来て、「かわいそうではない」状況に改め変容していくことも可能なのではないか?
なので、残酷ではあるが、反面「どうせ死ぬ」「そのうちいなくなる」など猫の個別の存在に名前も痛みも持たないモノ状況にある人ならば、その希望はないともいえる。
現実として、セラピストであっても介入に無力のケースは山ほどある。つらい現実ではあるが。

最後に自戒を込めて書きたいと思う。
ほんの一部ではあるのだろうが、保護猫のボランティアの活動にもためこみ症的状況が発生していることは周知の事実である。私たちもまた保護にあたって、適切な飼育状況、住居の広さと経済的状況から何匹まで健全に可能なのかを現実的に常に検討していなくてはならない。
現在の、公的な支援制度が整っていない、ほぼボランティア丸投げの厳しい保護猫の活動において、個々の猫の幸せに対して出来ることは何なのか?また出来ないと判断する稜線はどこなのか?踏み外せばアニマルホーダーと同じ存在であることに思い及んで活動することが求められていると思う。
助けられる猫と助けられない猫がいる、これもつらい現実ではあるが、幸せをつかむ猫と人との暮らしも確実に、この保護猫の活動によって拡大をしている。
適切なポジティブとネガティブ両面を持ち、勇気をもって現実を渡って行こう。


DSC_0284.jpg
※写真は内容と関連するものではありません(笑)

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  1. 2017.01.14 (土) 21:34
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  1. 2017.01.15 (日) 22:46
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  3. ももひなかーさん
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Re: No title

鍵コメさん、コメントありがとうございました。
本当に寒いここ数日ですから、やっぱりどうしても色々なことを思いますね・・・。
でもその痛みを持っていることが、持ち続けることが誠実なんだろう、と感じています。

よく譲渡会で「運命のこ」を探して、決められないと悩む方がいます。
私から見ると、どのこも「運命のこ」です(笑)。
ハリーポッターのダンブルドア先生の言葉ではないけれど、「選択」なんだと思います。
ふさわしいとかふさわしくないとか、条件だとかより良いとか、なんとかかんとかが自分の外にあるっていうことではないでしょうか?
自分の中に決めることが縁そのものだと思います。
このこに会えたということも縁、そしてこのこじゃないこに会っていないのも、きっと縁(笑)。

若い人たちへの啓蒙、私も頑張っていきたいです~。
娘にはもう、説教ババと指さされていますが(笑)。



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